弁護士 後藤 孝典
消費税率改定実施が微妙な段階に差し掛かったようだ。
8月12日内閣府が公表した2013年4~6月期のGDP速報値が実質で前期比0.6%増、年率換算で2.6%増になった。個人消費が伸びたほかに、輸出も好調であったが、企業の設備投資は0.1%減少した。
マイナスは6四半期連続だが、その減少率は3四半期連続で縮小していたという。甘利経済財政・再生相は、消費税増税に向けて「材料の一つとして、引き続いてよい材料が出ている」の述べたが、「問題は設備投資だ」との考えを強調した、と日経は報じている。
翌13日の日経は、安倍首相が法人税の実効税率の引き下げを検討するよう関係省庁に指示したと報じ、これは来年4月に消費税増税を決めた場合、法人税の引き下げ方針をあわせて打ち出し、景気の腰折れ懸念を払拭する狙いだ、と朝刊一面で論じている。いかにも、来年4月から消費税増税は不可避のニオイがするものの言い方だ。
もし、この秋に、首相が来年4月からの消費税増税の「施行の停止」(消費税法付則18条3項)をかけないとすると、中小企業はどのような影響を受けることになるだろうか。
懸念されるのは、中小企業金融円滑化法の期限切れに直面した本年3月末の時点で、倒産が予測された約4万強の中小企業のことだ。4万強という数字は、全国420万の中小企業総数のうち、金融円滑化法でリスケを受けた企業の数がその1割りの約42万強であったことを基礎に、転業も事業再生もできず、廃業に追い込まれるのは、そのさらに1割強程度であろうと私が推測した数字だ。
幸い、第二次安倍内閣の成立により財務大臣兼金融担当大臣の要職についた麻生太郎氏は、それまでの金融庁と中小企業庁が行ってきた、実効性の弱い、法的根拠も薄弱な「行政指導」的施策によらず、見事なほどに短時間で、「金融円滑化法期限切れによる中小企業の大量倒産の危機」を終息させた。
麻生太郎氏は、彼一流の諧謔を交えながら、立ち直りの見通しが暗い中小企業を金融のうてなから放り出そうとする金融機関に向って、そんなことは許さないぞという「恫喝」も加えたのだろうと推測しているが、それよりも、はるかに見事であったのは、マイルドなインフレーションの実現によって問題を解決するという方策を取ったことだ。
これは私の推測ではある。しかし、安倍内閣が2%のインフレの実現によってデフレを脱却するという政策を打ち上げ始めた時期と、「金融円滑化法期限切れによる中小企業の大量倒産の危機」がマスコミから消えた時期とは一致する。
もちろん、安倍内閣は「金融円滑化法期限切れによる中小企業の大量倒産の危機」を解消するためだけにインフレ政策を採用したわけではないが、あれこれ新しい法律を作ったり、金融機関に対する過剰なまでの行政指導を繰り出すことよりも、インフレによって中小企業問題を解決できると麻生太郎氏が判断しことは、まず間違いないであろう。
一方、この秋に消費税増税断行の方針を打ち出したことにより、投資ばかりか消費も火が消え、デフレという怪物が黒い大きなマントを広げて日本全体を再び被うこととなれば、「金融円滑化法期限切れによる中小企業の大量倒産の危機」も再び復活することは必定である.
まだ、小企業者の苦境は、なにも解決していないからだ。
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